
心霊スポット
青山霊園で、乗せてはいけない女がいる。
東京・南青山。
六本木からも、乃木坂からも近い。
高級マンション。ブランドショップ。レストラン。
夜になっても、東京の光が消えることはない。
しかし――そのすぐ隣に、突然、巨大な暗闇が現れる。
青山霊園。東京のど真ん中にある、約26万平方メートルの巨大な墓地だ。
女が、喋らない
深夜、霊園の脇でタクシーが女を乗せる。
行き先を告げる声は小さく、聞き取れない。
しばらく走る。運転手が、何か話しかける。
返事がない。
もう一度、バックミラーを見る。
女は、後部座席に座っている。俯いている。
雨の音。ワイパー。信号。東京の夜。
そして――もう一度、バックミラーを見る。
誰もいない。
後部座席には、誰も座っていない。
料金は、最初から払われていない。行き先も、告げられたはずなのに思い出せない。
運転手たちは、それでも夜な夜な霊園の前を流す。乗せてしまえば終わり、というわけでもない。ただ、二度と同じ場所で客を拾わない者もいる、とだけ言われている。
夜になると、さらに変わる
昼間なら、霊園は明るい。桜。散歩。歴史探訪。
しかし、深夜。人が消える。墓石。木。細い道。
そして、その向こうには、六本木や青山の光。
「死者の場所」と「眠らない東京」が、ほとんど隣り合っている。
この景色だけで、東京という街の異様さがわかる。
青山霊園の近くで、女性を乗せた。
しばらく走った。
そして、バックミラーを見た。
誰もいなかった。
残っていたのは、濡れた後部座席だけ。
本当にそんなことがあったのか。分からない。
だが、次に深夜の青山霊園をタクシーで通ることがあったら。おそらくあなたは、一度だけ、バックミラーを確認してしまう。
実在する霊園、実在する隣人
青山霊園は1874年(明治7年)、日本で最初期の公営墓地のひとつとして開設された。都心のほぼ真ん中、港区南青山という一等地に、今も約26万平方メートルの敷地を保っている。
著名人の墓も多い。大久保利通、志賀直哉、尾崎紅葉――そして、忠犬ハチ公の墓も、飼い主だった上野英三郎博士の墓のすぐそばに、ここにある。
観光地としても知られる、れっきとした公共施設だ。都市伝説の舞台というより、東京の歴史そのものが積み重なった場所、と言った方が正しい。
だからこそ怖い。作られた廃墟でも、忘れられた場所でもない。誰もが知っている、誰でも入れる場所に、この話は今も生きている。


